目視検査はなくなるのか?製造業における自動外観検査の動向(日本・海外)

目視検査と自動外観検査の普及状況

電子部品、半導体、自動車など製造業の品質検査では、依然として人間の目視検査に頼る工程が多数を占めています。例えば日本のある地域調査では、検査工程の自動化率はわずか5~20%程度に留まり、残り80~95%は人手による検査に依存していた。この傾向は全国的にも同様と推測され、実際、生産現場では多くの検査項目で目視検査が圧倒的に多い状況です。こうした状況は海外でも大きくは変わらず、現在でも製造現場の検査業務の大部分は人手で行われていると指摘されています。特に製品形状や表面状態が多様なケースでは、自動化が難しく熟練検査員の目視に頼らざるを得ないのが実情です。

一方で、画像処理技術やAI(人工知能)の進歩により、一部の分野では自動外観検査装置(Automatic Optical Inspection: AOI)の導入が進んできました。半導体産業ではウェハやチップの外観検査に専用装置が古くから導入されており、微細な欠陥検出は自動化が進んでいます。また電子部品実装(プリント基板検査など)でも高速AOIが標準的に使われています。自動車産業でもカメラやセンサーを用いた組立工程の検査や塗装面の外観検査が導入され、不良の早期発見に役立てられています。ただし最終検査の段階では、複雑な品質判定について依然として人間の目が担っている部分が少なくなく、完全自動化のハードルは依然高い状況です。

日本の自動外観検査導入の状況と課題

日本も製造業の検査自動化に力を入れており、経済産業省は「コネクテッド・インダストリー」等の政策でAIを活用した品質検査革新を推進しています。熟練検査員の高齢化が進み人手不足で新規雇用も困難な現状は深刻な課題となっていて、経産省報告書では、国内の外観検査工程にかかるコストは数千億円規模にも上り、人手検査の効率化・代替が産業全体の競争力維持に重要とされています。

人手に頼った検査の課題として、以下の点が指摘されている

  • 人件費負担の増大によるコストアップ(熟練検査員を確保するコスト)
  • 人による判断のバラツキ(個人差や体調・時間帯による差異)
  • 検査データのフィードバック遅延(不良情報の即時集計・共有が困難)
  • 人材育成・技能伝承の難しさ(熟練者の育成に時間がかかり、暗黙知の伝承が困難)
  • 集中力維持の負担(長時間の目視作業は肉体的・精神的負荷が大きい)

こうした課題があるにもかかわらず、最新の検査技術が十分に現場へ普及しない要因も指摘されています。中小製造業では導入コストや技術力の制約から「自社の検査ニーズに合致した市販装置が見当たらない」「検査項目や製品種類の変化へ柔軟に対応できる装置がない」といった声があります。

自動化のボトルネック

  • 導入時の設備投資が高額
  • 少量多品種生産では検査項目が多様すぎて自動化しにくい
  • 検査基準が定量化しづらい
  • 数値で表現できない検査項目がある

人の五感・判断に頼る品質判定が残っていることが、自動検査導入を難しくしている側面があります。

それでも近年、AI画像認識を活用した自動検査の試みが増えており、大学・研究機関やスタートアップ企業も協働してソリューション開発が進んでいます。例えば経産省が紹介したスタートアップの事例では、従来より少ない教師データで検査員と同等の不良検出率を実現する外観検査AIシステムが開発されました。このように人工知能の実用化が進めば、これまで自動化が遅れていた目視検査分野でも導入が加速することが期待されています。実際、現場でもAI検査への関心は高く、国内製造現場でのアンケートでも「今後自動化したい工程」として外観検査を挙げる企業が多いとの報告があります。

欧米における自動検査導入の動向

米国や欧州の製造業でも、品質検査へのAI・自動化技術の活用が進みつつあります。米国の標準技術局NISTによれば、「製造業者の55%がAIをゲームチェンジャーとなる技術と見なしている」とされ、実際にカメラとアルゴリズムによって人の目では見落とす微細な欠陥を高速検出するAI検査の事例も報告されています。NISTが全国の中小製造業を支援するMEPネットワークを通じて収集した事例でも、AIによる検査導入で不良流出率を大幅に低減し、検査時間を短縮した成功例が紹介されています。特に米国自動車産業や航空宇宙産業ではロボットを使った自動検査が進んでおり、生産ラインに組み込まれたマシンビジョンやレーザー計測システムでリアルタイムに品質確認を行う企業もあります。NISTの報告書でも、「現状では検査の大部分が人手に頼っているが、高度な画像・センサー技術を備えたロボット検査は大企業から導入が進み、技術の高信頼化と低コスト化によって今後はより幅広い業種・企業へ広がる可能性が高い」と分析しています。実際、ロボット産業の国際統計では品質検査用途のロボット活用が年々拡大しており、高度な検査工程の自動化が全世界的な潮流になりつつあります。

自動化が日本より進んでいる要因

 

目視検査は直ぐにはなくならない

前述のように検査基準の定量化が難しい分野や、製品バリエーションが多く学習データが不足しがちな工程では、当面は人間の熟練した感覚による最終確認が不可欠です。特に外観上の「美しさ」や触感的な良否など、数値や画像では評価しづらい要素については、人間の五感による判断が残存する可能性があります。しかしその領域も徐々に狭まっていくと考えられます。ロボットやAIの性能向上・低コスト化が進めば、多品種少量生産にも柔軟に対応できる汎用検査AIが開発される見込みであり、将来的には人間は特殊ケースの判断やシステムの監督に回り、通常の外観検査作業の大半は自動化されるシナリオが描かれています。実際、日本政府も製造現場の将来像として「人手不足の中で人に依存しない生産工程」を掲げており、検査についても人間と機械の役割分担を再定義する方向です。

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